フジクラ技報一覧

No.102 2002年4月
つい先日までは夢であった一般家庭での光ファイバ利用(FTTH)も, NTTのBフレッツサービスなどで現実の物となり,本格的なブロードバンドアクセス時代が幕を開けた. 今後, 光通信網に求められる伝送容量も, ますます増大してゆくものと考えられる.
この大容量伝送を可能とする技術が高密度波長多重伝送技術(DWDM)であり, さらにこれを支えるコア技術の一つがPANDAファイバや全ファイバ型偏波ビームコンバイナ, ファイバグレーティングを始めとした, 当社の光部品技術である.
当社ではさらに将来のDWDM伝送技術の動向を見据え, これまでに偏波保持ゲインブロックモジュール, 偏波保持WDMファイバカプラなど偏波保持型の光部品にも業界の先陣を切って着手し, 製品化してきた. 当社は光部品をこれまでと同様, 今後もDWDM伝送におけるコア技術の一つとして発展・進展させ, 情報通信の発展へ大いに貢献してゆく所存である.
論文記事
偏波保持型WDMファイバカプラ
光電子技術研究所 | : | 大内 康弘 深澤 正和 田中 大一郎 西出 研二 |
偏波面保持WDM(PM-WDM)ファイバカプラは,偏波面を保持した信号光と励起光を合波するデバイスであり,偏波面保持型EDFAのような増幅器に適用される.
今回,溶融延伸技術を基に全ファイバ型980/1,550nm帯 PM-WDMカプラの開発を行った.低挿入損失,低偏波クロストーク等の優れた光学特性,およびTelcordia GR-1209 core,GR-1221 coreの規格に準拠した信頼性試験により,高い信頼性を確保していることも確認された
ツリウム添加光ファイバを用いた利得傾斜補償L-band
エルビウム添加光ファイバ増幅器
光電子技術研究所 | : | 北林 和大 酒井 哲弥 |
高密度波長多重伝送システムにおける伝送帯域の拡大には,L-band(1,565-1,625nm)エルビウム添加光ファイバ増幅器(Erbium-doped Fiber Amplifier,以下EDFAと略す.)が非常に有効である.しかし,L-band EDFAの利得平坦度は動作状態の変化や環境温度の変化によって大きく劣化する.この2つの要因のうちどちらか一方による利得平坦度劣化を補償する方法が,これまでにいくつか報告されている.われわれはそのような利得傾斜補償法と同等の性能を維持したまま,EDFAの動作状態変化と環境温度変化による利得平坦度の劣化を同時に補償できる利得傾斜補償器を開発した.
フッ素化ポリイミド熱光学効果光スイッチ
光電子技術研究所 | : | 佐久間 健 藤田 大吾 小川 弘晋 関口 利貞 細谷 英行 |
高密度波長多重(DWDM)通信システムにおける光アドドロップ装置あるいは小規模光クロスコネクト装置への適用を目的に,基板導波路型(PLC)光スイッチを開発した.材料にフッ素化ポリイミド樹脂を採用し,熱光学効果により光信号の経路選択を行うものであり,制御の容易なデジタル応答特性が特徴である.本報では,試作した1×2型および2×2型光スイッチについて報告する.
Aeff拡大型SMFとSC-DCFを用いた広帯域分散フラット複合線路
光電子技術研究所 | : | 松尾 昌一郎 愛川 和彦 齋藤 学 姫野 邦治 原田 光一 |
Aeff拡大型SMFとSC-DCFを用いた分散スロープ補償型の複合線路について検討を行った.非線形実効断面積(Aeff)を110から125µm2まで大きくしたAeff拡大型SMF,およびこれらのAeff拡大ファイバの分散ならびに分散スロープを補償する分散補償ファイバを試作した.試作したファイバを用いた複合線路は,70µm2を越える等価Aeffを示し,非線形光学効果の低減に有効であること,C-band,L-bandにわたる一括分散補償が可能であることを確認した.
イーサネットPONシステム
光システム事業部 | : | 大西 洋也 荒井 克幸 堂元 和宏 桑原 雅之 林 広幸 北村 浩 松田 悟司 佐竹 弘行 |
PON(Passive Optical Network)型のFTTH(Fiber to the Home)網を用いて,ブロードバンドのIP(Internet Protocol)通信を効率的に実現するイーサネットPONシステムの機能,特徴を報告する.
本装置は従来LAN(Local Area Network)で使用されてきたイーサネットのスイッチング(交換)技術を公衆網に適用するものである.公衆網ではLANに比べてセキュリティが重要になる.本装置ではLANのスイッチング技術に工夫を加えて,高いセキュリティ機能を実現している.
融着接続における損失推定の改善
光システム事業部 | : | 大澤 孝治 伊藤 和広 中道 孝 齊藤 茂 |
情報通信国際事業部 | : | 窪 敏喜 |
光増幅器等の光モジュールやDWDM伝送には,様々な特性を持つファイバが多く使用されており,これらを融着接続する機会が近年飛躍的に増加している.従来の融着接続機に搭載されている損失推定方式はこれら特殊ファイバには充分に対応できないことが多かった.そこで,特に特殊ファイバを接続することを目的とした工場用融着接続機を対象として,新しい損失推定方式の検討を行った.コア歪みやMFDミスマッチなどの新しい損失パラメータを考慮することにより,損失推定機能の大幅な改善をはかった.
CVケーブルの新規残留電荷測定法による劣化診断(その2)
中部電力株式会社 | : | 宮島 和久 内田 克己 |
電力技術開発センタ | : | 今 博之 渡辺 和夫 |
これまでに,水トリー劣化したCVケーブルの劣化診断手法として残留電荷測定法の検討を行ってきた.残留電荷測定法においては,交流電圧をステップ状に常時対地電圧程度まで複数回課電することにより得られる残留電荷量分布が,絶縁体中の水トリー分布を反映していることを見出した.つまり,残留電荷が放出される最高の交流課電電圧は,長い水トリーに起因している.この特性を利用し,残留電荷が放出される最高の交流課電電圧を劣化指標として用いる新たな残留電荷測定法を開発した.
高発熱融雪スパイラル
東京電力株式会社 | : | 中村 浩 田上 大輔 北村 敏夫 |
電力技術開発センタ | : | 浅野 祐二 永田 豊 |
材料技術研究所 | : | 片山 慎司 斉藤 隆 |
送電線への着雪は,異常荷重やギャロッピング振動などの問題の原因となる場合がある.電線への着雪対策の一つとして,磁性材料でつくられた融雪用線材を電線に巻付け,ここから発生する熱により融雪する方法がすでに実用化されている.しかし,従来の融雪線材では冬季の潮流が少ない送電線において,融雪に必要な発熱量が十分に得られず適用できない場合があった.このため,既存の融雪線材の材料組成などを見直し,特に低潮流下での発熱量を増大させた高発熱融雪スパイラルを開発した.
鉛フリーはんだめっき
材料技術研究所 | : | 市川 雅照 |
電子部品開発センタ | : | 菅原 純 廣瀬 毅 |
株式会社東北フジクラ | : | 鎌田 智 |
環境への配慮から,電子機器の実装に使用されるはんだ,はんだめっきの鉛フリー化が求められている.当社では,すでにフラットケーブル(フジカード)導体めっきの鉛フリー化対策を行い製品化している.今回,FPC端子部のはんだめっきの鉛フリー化を推進するため,種々のはんだめっき材料からSn-Cuめっきに絞り,採用に踏み切った.
高速伝送ケーブル
電子部品開発センタ | : | 安部 知明 松浦 克久 桑原 浩一 貫名 正人 小笠原 孝 |
生産技術統括部 | : | 内山 義実 |
ストレージエリアネットワーク(SAN)の広まりとともに伝送路の高速化の要求が出てきた.本報では高速伝送ケーブルの信号伝送方式と対内,対間スキューを低く押さえたケーブルの開発について報告する.
抵抗膜式透明タッチパネル
電子部品開発センタ | : | 水谷 宗幹 |
電子デバイス研究所 | : | 山本 敏 永田 雅克 中尾 知 黒坂 昭人 |
プリント回路事業部 | : | 川上 裕之 遠藤 正徳 |
LTEC Ltd. | : | 吉沼 邦 |
携帯電話と同様にPDAなどの移動可能な電子情報機器にEメールやインターネットなどの機能を付け加えようととすると,今日では,透明タッチパネルがそれら携帯端末に付属するインタフェース用部品として重要な役割を演じていることを,直ちにかつ明確に認識させられる.それゆえ,タッチパネルの需要が急速に伸びることが期待できるとの予測のもとに,抵抗膜式透明タッチパネルを開発した.さらに,この抵抗膜式透明タッチパネルが,上述した応用において,その出力性能や信頼性などに関する従来の仕様を満足させることも確認した.
R−R印刷技術
電子部品開発センタ | : | 大山 昌紀 元木 和行 石井 崇裕 |
株式会社青森フジクラ | : | 鈴木 正治 小舘 智 石崎 和夫 漆戸 敏 |
R-R印刷技術は高精細回路重ね印刷を用いて,薄いPET基材への回路形成を可能にすることを目的に開発された新しい技術である.この開発により,厚さ25µm以下のPET基材上に0.18mmピッチ以下の回路への重ね印刷が高精度に行えるようになった.
本報では,この印刷技術の特徴を紹介する.さらに従来の印刷方式では不可能であったが,本ラインの導入によって初めて製品化できた製品についても紹介する.
シリコン基板へ形成した高アスペクト比貫通配線
電子デバイス研究所 | : | 末益 龍夫 糸井 和久 山本 敏 滝沢 功 |
厚いシリコン基板の表裏を導通する高アスペクト比の貫通配線を形成するための要素技術を開発した.この貫通配線は,半導体デバイスの3次元積層あるいはMicro Optical Electro-Mechanical System(MOEMS)デバイスのパッケージングに応用が期待される.光アシスト電解エッチング法および溶融金属吸引法を用いて,厚さ500µm前後のシリコン基板へ金属を充填した貫通孔を試作した.貫通孔の直径は15µmでアスペクト比は35,貫通孔の形成密度は最大500本/cm2,絶縁耐圧は500V以上であった.またKr-85を用いたラジオアイソトープリークテストの結果,貫通配線でのリークレートは検出限界以下(1×10-15Pa・m3/s)であった.
酸素センサのヒータ駆動回路
機器電材事業部 | : | 西田 裕 塗 健治 |
当社の酸素センサは長寿命,高精度さらにメンテナンス不要という特長を持ち,ppmレベルの低濃度から90%を超える高濃度までの広い濃度範囲を測定できる.センサの特性に大きな影響を与える動作温度を正確にそして安価に制御するため,組込型マイクロコントローラを使用した酸素センサヒータの定電力駆動回路が有効である.