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統合報告書2025年

統合報告書2025
第三者意見

本木 啓生
株式会社イースクエア
代表取締役社長
創業140周年を迎えるフジクラグループの「統合報告書2025」は、現在の経営力および組織力の強さを随所に感じることができるレポートとなっています。2019年度に385億円の純損失という業績悪化に真っ向から向き合い、2020年からの事業再生フェーズにおいて100日プランによる構造改革を断行しました。その結果として、2023年度から始まった中期経営計画は1年前倒しで達成し、2024年度の連結決算では売上高と純利益がいずれも引き続き過去最高を記録しています。財務ハイライトに示された売上高、営業利益、総資産、自己資本比率、1株あたり当期純利益、ROE、ROIC、キャッシュフローのいずれをとっても、現在のフジクラグループの力強い姿を如実に読み取ることができます。
昨年の第三者意見にてご指摘申し上げた事項は、すべてではないものの多くの点で反映されており、統合報告書としてさらに一段と優れた内容へと進化していることを感じます。見開きページで示されている「フジクラグループの強み」には、快進撃を続ける同社における成功の鍵が盛り込まれています。業界初や業界トップレベルの製品を生み出す「新製品開発力」と、模倣しにくい製品製造を可能とする「製造技術力」という両軸の強みが相乗効果を生むとともに、CEOメッセージで言及されているように、時価総額世界トップ10の大半の企業を顧客とするデータセンタ関連ビジネスや、過去の経営危機を乗り越える中で磨かれてきた経営管理手法の継続的なブラッシュアップも、大きな強みとして認識できます。これらの要素が組み合わさることで、現在のフジクラグループの「勝ちパターン」につながっていることを強く感じます。
そのことは、見開きページの「価値創造プロセス」にも反映されており、昨年よりシンプルにしつつも、用いられている一つひとつの言葉が洗練され、メッセージがより明確に伝わります。6つの資本によるインプットとして説明されている内容は明快であり、バリューチェーンとフジクラグループの強みを通して生み出されるアウトプットおよびアウトカムとの間に一貫性があります。
また特筆すべきは、新規事業創出に向けた「特命プロジェクト部」の創設です。社員から提案されたアイディアの事業化を推進するために、既存業務から切り離した専任体制とすることで事業開発のための時間と予算を確保するという試みです。現在、5つのプロジェクトが進行しているということで、新規事業開発の成果のみならず、プロジェクトに参加した社員の人材開発の面でも大きな効果が期待されます。
今後の統合報告書の改善および取り組みの拡充に向け、以下の3点についてコメントいたします。
- カーボンニュートラルへの取り組み強化
CEOメッセージでも言及されていますが、フジクラグループは、事業活動における取り組みである「Beyond2025」の一環として「事業そのものでカーボンニュートラルに貢献」することを目指しています。これは、2030年代を見据え、安全でクリーンなエネルギー源となる可能性のあるフュージョンエネルギーを利用した発電において、高温超電導線材が大量に使用されるという見込みによるものです。また、AIの進展などによる情報通信量の飛躍的な拡大に伴い、急増するデータセンタで使用される無数の光ファイバケーブルに細径高密度型光ファイバケーブル(SWR®/WTC®)を採用することで、10倍以上の密度で光ファイバを実装でき、空間効率を高めることができるとしています。
一方、顧客となる多くのクリーンエネルギー企業や情報テクノロジー企業はネットゼロにコミットしており、顧客企業の脱炭素化が急速に進んでいくことが予測されます。フジクラグループの事業活動におけるCO2削減は喫緊の課題であり、現在の電力における再生可能エネルギー使用比率20.8%という水準は見劣りします。RE100に加盟し、2050年に再生可能エネルギー100%化を目指しているところですが、目標時期をさらに前倒しすることで、脱炭素に向けた製品の優位性と事業活動の取り組みレベルを同次元に引き上げていただきたいと考えます。 - サプライチェーンにおける人権要素の強化
サプライチェーンマネジメントに関しては、統合報告書2025において、CSRサプライチェーンアンケートの集計結果を開示したことで、開示レベルが高まり、サプライヤのサステナビリティへの取り組み状況やリスク状況も概観できるようになりました。一方で、フジクラグループ調達基本方針には人権の要素が盛り込まれていません。今、企業に求められるサプライヤーリスク管理は、Tier1に限定されず、Tier2、Tier3へと広がりつつありますが、その際に最も重要な要素の一つが人権です。もう一度、株主・投資家をはじめとするステークホルダーのリスク認識の要素を再検証し、調達基本方針を見直すことを推奨します。 - マテリアリティの再検証と戦略統合
「フジクラグループの中長期的成長へのロードマップ」において、今後の企業経営の方向性を定める目標として、2025年度で終了する中期経営計画の先にはBeyond2025および環境長期ビジョン2050が位置付けられています。中長期的な視点で事業活動を進める上で、中核として据えるべきテーマがマテリアリティです。マテリアリティには、環境・社会に及ぼすインパクト要因として事業活動として取り組むべきものもあれば、サステナビリティ課題を事業上のリスクや機会と捉えて事業戦略の一環として取り組むべきものもあります。
例えば、フジクラグループ環境長期ビジョン2050で掲げられているCO2削減の対象は自社グループの事業活動に現在では限られていますが、前述した「事業そのものでカーボンニュートラルに貢献」していくことも、事業上の機会に結びつく戦略的なマテリアリティになると考えられます。地球環境や社会にもたらすインパクトの評価のみならず、事業戦略との関係においてサステナビリティ課題が自社のリスクと機会にどのような影響をもたらすのかを再検証し、より重要度の高いマテリアリティの特定につなげることを期待します。
現在、グローバルレベルでサステナビリティ情報開示の義務化や基準の統一化が加速しています。その理由として、将来の企業価値を見極めたい株主・投資家をはじめとしたステークホルダーの間では、従来の財務実績だけでは不十分であり、非財務情報を組み合わせて評価を行う必要があるという認識が主流化してきたためだと言えます。こうした流れの中で、優れた経営力と組織力を発揮するフジクラグループだからこそ、サステナビリティ課題も経営戦略に本格的に融合させ、サステナビリティ経営を前進させていくこと、そしてその取り組みをより優れた形で開示していくことに、今後大いに期待したいと考えます。
ご意見を受けて

浜砂 徹
執行役員
経営戦略部門長
本木様には、常に的確なご意見・ご助言を賜り、厚く御礼申し上げます。ご指摘いただいたカーボンニュートラルおよび人権に関する課題は、現在進めているマテリアリティ見直しに反映できるよう検討してまいります。フジクラグループは、顧客価値の創造と社会への貢献を目指し、企業活動を実践するとともに、統合報告書を通じてステークホルダーの皆様への情報開示を継続してまいります。
