FUJIKURA ODYSSEY vol.05 超電導革命 世界に先駆ける“イットリウム系酸化物超電導線”開発物語 Phase.5 機器開発、そして未来へ。 どこよりも独創的かつ革新的な技術で、世界を先駆けるフジクラの挑戦が始まる。 Y系超電導線は磁場中での臨界電流特性が高いため、いかなる用途にも使える。中でも特に磁場を利用した機器(例えばリニアモーターカー、診断用MRI、エネルギー貯蔵装置など)には最適と考えられる。これらの機器には超電導線をコイル状にしたマグネットが使われる。コイルに加工したときには巻線時に曲げや引張のひずみが作用する。また通電時には電磁力も働く。さらには冷却とのバランスや異常時にどのような現象が生じるか等々、機器応用には線材レベルでは判らない種々の課題が存在する。したがって機器応用に先立って検討しておくことが多々あり、それらを線材作製プロセスにもフィードバックしていく必要がある。 マグネット 液体窒素冷却型そこでフジクラでは、超電導線を曲げた時の超電導特性の調査をはじめ、超伝電導線をコイル状にしたマグネットの運転特性の調査、臨界電流を超えての通電実験、液体窒素中の温度変化チェックなど、様々な仮説と検証を繰り返す。 実際には通電を行っても何事もなく推移した。さらに臨界電流を超えて通電をおこなったところ、わずかに常電導に転移をはじめ、電圧も観測された。さらに通電電流を大きくすると電圧は上昇するが、マグネットに取り付けた温度計は微動だにしない。これはY系超電導線を機器に適用したときに、従来の金属系超電導機器に比べて安定して運転できることを意味している。 冷凍機冷却型マグネットさらに2006年には液体窒素温度である70Kよりも低い温度でのマグネットの励磁特性を把握するために、冷凍機冷却によるマグネットを製作。そしてこのマグネットを用いて30K〜70Kでの励磁特性を調査した。その結果は液体窒素中と同様に安定した通電が可能であることを明らかにできた。 これらの結果を受けてY系超電導線を使ったものとしては最初のモーターが製作された。モーターは船舶用を想定した定格360rpm・15kWのもので、回磁コイルに超電導線を使用。電機子は銅線をつかった半超電導モーターであった。モーター回転試験を終え、さらには船舶用としての特性を試験するため、実際にスクリューを取付け、水中での試験も行われた。結果は上々。いよいよ実用化への勢いに弾みがつく。 これまで述べてきたようにY系超電導線は500mを超える長さのものを製作できるレベルになった。また臨界電流も液体窒素温度で500Aを超えるところまできた。今後はさらなる特性改善とともに長尺を低コストで製作できる技術を磨きながら、各種超電導機器への適用化検証を行っていく。そして早期に世の中に提供するアプローチを続けていく。ビジネスとして成功するには、これからが正念場となる。どこよりも独創的かつ革新的な技術で、世界を先駆けるフジクラの挑戦が始まっている・・・。 なお、これまで述べた研究成果の多くは独立行政法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構殿からの委託により研究開発した、「超電導電力応用技術開発」(1987〜1998)「超電導応用基盤技術研究開発(I期)」(1999〜2002)「超電導応用基盤技術研究開発(II期)」(2003〜2007)の研究開発成果である。 1 2 3 4 5