FUJIKURA ODYSSEY vol.05 超電導革命 世界に先駆ける“イットリウム系酸化物超電導線”開発物語 Phase.3 超電導の発展 成膜速度と臨界電流密度の向上、そして長尺化へのアプローチで次々と記録を更新。 IBAD法の発見当時は、小型静止型装置を用いてその原理検証を行った。装置の制約からここで出来る中間層の線材は数cm程度のものであった。その後最初の基材テープを移動させながら成膜出来る装置の設計製作へ。線材として機能することを世の中に示すため、メートル級の線材ができるようにイオン源の選定、配置等を検討した。装置製作にあたってはイオン注入技術に長けている某重電機メーカーに依頼するが、予算の関係で最初は断られる。しかしながら結局は出世払いということで、かなりの安値で製作してもらう。かくして1992年度末に装置は完成。この装置は配向に長時間を要するため、線材作製速度は1時間にわずか10cm。そのため数mの中間層線材を作製するのに昼夜連続で数日かかった。 その後改良を重ね、1時間に1mができる装置へと発展。遂には100m長の中間層ができるようになった。さらに2003年度からはじまったY系線材開発プロジェクトにおいては500m長の中間層を5m/hでできるように、イオン源を60cm×8cmから4倍の110cm×15cmへと大型化。この装置により2007年度末に504m長で平均臨界電流440Aの超電導線を実現することになる。 さらに成膜速度を向上させるために中間層材料やイオン照射方法を研究開発しており、数10m/h〜100m/hの成膜速度がまもなく実現の運びとなる。 「大型巻取り式IBAD装置」の開発 500m級 IBAD成膜装置 1.1m × 0.15m イオンソース 超電導層は気相法によって作製するのが最もその特性を発揮させることができる。現在、気相法によるプロセスとしてレーザー蒸着法(PLD法 Pulsed Laser Deposition)、化学気相蒸着法、有機金属成膜法(MOD法 Metal Organic Deposition)が主なものである。PLD法は超電導体の粉末を焼結させたターゲットと称する円盤にレーザーを照射し、そこから飛び出してくる粒子を基板上に堆積させる方法。高速成膜が可能なことと、原料には酸化イットリウム等の一次原料から直接ターゲットにできることから原料コストが安価である。成膜には800〜900℃の温度と適当な酸素ガス、レーザーの照射条件を選べば数100Aの臨界電流を有する超電導線が作製できる。成膜温度は低すぎるとa軸粒子と称する超電導電流に寄与しない結晶が成長し、高温過ぎると成膜した超電導体が分解するなど、いずれも低臨界電流膜しかできない。その対策としてレーザーの高出力化や温度制御方法改良などを行ってきており、1990年代半ばでは臨界電流密度が50万A/cm2 程度であったものが2005年頃には100万A/cm2 を超える線材が長尺で得られるようになった。さらに2007年には200万A/cm2 とさらに向上し、現在では300万A/cm2 を超える線材が得られるようになってきている。 1 2 3 4 5