第二世代、レアアース系高温超電導線材の量産技術開発に成功-磁場中臨界電流密度1.5倍の世界最高性能線材の実用化に目途- 2019年7月11日 株式会社フジクラ(取締役社長 伊藤雅彦)は、このたび低温磁場中の臨界電流密度が従来比1.5倍以上(当社従来比)である400A/mm2を超える世界最高性能のレアアース系高温超電導線材の量産技術開発に成功し、販売を開始しました。 超電導技術は医療分野のMRI(Magnetic Resonance Imaging:磁気共鳴画像診断)装置、半導体分野のシリコン結晶炉引上げ装置などで使用されていることが知られています。従来の超電導装置は冷却に液体ヘリウム(摂氏マイナス269度)を用いる金属系低温超電導線材が使われていますが、液体ヘリウムは希少な天然資源であり、価格高騰や調達面で課題があるとされています。そのため当社が開発を進めるレアアース系高温超電導線材は液体ヘリウムを使用しない次世代の高温超電導機器を実現する重要な製品として早期の実用化が望まれています。 当社は2016~18年度に国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の「高温超電導実用化促進技術開発/高磁場マグネットシステム開発/高温超電導高磁場コイル用線材の実用化技術開発」事業を受け、MRI装置への適用を目指したレアアース系高温超電導線材の開発を行ってきました。高温超電導MRI装置は小型装置では既に画像取得に成功しており、今回、磁場中臨界電流密度400A/mm2に到達することで液体ヘリウムを用いないコンパクトな次世代MRI装置が実現可能なレベルに到達しました。 ここ数年、レアアース系高温超電導線材を用いた次世代機器開発は活発であり、既に一部では実用機に向けた動作検証が行われています。また、線材供給量の増大に伴い、線材も数十~100km程度を用いるなど検証機の大型化も進んでいます。当社が今回発表する新製品はこれら実用化に向けた活動を推進するもので、既に国内はもとより海外からも問合せが増加し、線材提供を進めております。 当社は、今後も更なる需要拡大に応えることでレアアース系高温超電導線材およびコイル製品の提供により高温超電導ビジネスの拡大を図ります。 レアアース系高温超電導線材外観 (線材幅4mm製品) レアアース系高温超電導コイル外観 (当社製造品 参照写真) 【参考:用語説明】 高温超電導線材 超電導は、ある温度以下になると電気抵抗がゼロになる現象。超電導には、液体ヘリウム(沸点:-269℃)を使って冷却する低温超電導(金属系超電導)と、液体ヘリウムを用いない高温でも超電導を示す高温超電導(酸化物系超電導)とがある。 高温超電導線材は低温超電導線材に比べ高温で超電導を示すことから、冷却に必要となる設備が軽減されコンパクトな形状となり、冷却にかかるコストを低減すること(省エネルギー)が可能となる。 レアアース系高温超電導線材 表面を結晶配向化した長尺金属テープやクロム・ニッケル基合金などのテープ状金属基板上に、IBAD(Ion Beam Assisted Deposition)法などによる中間層を介してレアアース(イットリウムなど)、バリウム、銅等からなる酸化物超電導材料を結晶成長させながら成膜した超電導線材。その特性は、磁場中でも特性低下が少なく、電流密度が高く、また交流損失も小さい。実用化された高温超電導線材の中で最も性能の高い材料である。 臨界電流密度 超電導体に流せる限界の電流の値のことを臨界電流といい、その電流値を線材断面積で割った値を臨界電流密度と呼ぶ。超電導特性の重要な指標の一つである。通常は面積1平方ミリメートル角あたりの電流値(A/mm2)で示される。今回達成した1.5倍の臨界電流密度は、超電導でない部分を含む線材全体の断面積で臨界電流密度を割った値であり、かつ、温度30ケルビン(-243℃)、磁場7テスラ(7万ガウス)における性能を示す。