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コミュニティ
統合報告書2024年

統合報告書2024
第三者意見

本木 啓生
株式会社イースクエア
代表取締役社長
フジクラグループ統合報告書2024は、過去の経営危機を経て進められた企業変革が着実に前進し、企業価値を継続的に創造する組織へと向かっていることを感じさせる内容となっています。昨年コメントさせていただいた各種長期目標の整合性やTCFDの枠組みに基づく報告なども反映されており、大変喜ばしく思います。
フジクラグループの強みとなる技術力とそれを支える人財育成が、今後の成長戦略においていかに重要かということが伝わってきます。一昨年、技術・開発に関する戦略の策定と実行を一括統括するCTOのポジションを新設され、CEO・CTO・CFOの“三頭体制”による執行に切り替えました。技術の優位性を着実に事業化に結びつけるという方針が、今回の報告書では明確に示されています。特に、CEOメッセージ及びCTOメッセージでもフジクラの高い技術力により、新しい事業や製品を生み出すことでお客様の価値創造につなげていくことの重要性を強調しているところが印象的です。
財務戦略においては、高水準を維持するROEや増加傾向にあるキャッシュフローからも、財務基盤が強化されつつあることが分かります。また、成長のための基盤づくりとして、設備投資や研究開発は一定水準を維持しつつも、慎重に資金投入を行うという判断を行っていることが読み取れます。一方で、2020年に策定した事業再生計画「100日プラン」における重点施策の一つとして「グループガバナンスの強化」を掲げていたのですが、昨年連結米子会社AFLの経営トップによる不正が発覚しました。このことは、フジクラグループにとって大きな痛手となりましたが、日米の組織全体でこの不祥事による危機感を自分事として共有することができたことで、さらなるグループガバナンスの改革へとつながっているものと思います。
今後の統合報告書の改善及び取り組みの拡充に向け、以下4点をコメントいたします。
- 今回、「ビジネスモデルと原動力になる諸資本」の見開きのページが新設されました。事業活動の源泉となる6つの資本の全体像が分かりやすく示されたと思う一方、フジクラグループの強みとなる重要な要素が盛り込まれていない印象を受けます。例えば、岡田CEOと坂野CTOの両者が強調する世界水準で強みをもつ製品を生み出す製品開発の技術力と、ものづくり力である製造の技術力をセットで持つことの強みが諸資本の中に盛り込まれていません。さらに、坂野CTOが重要性を訴えるフジクラの保有する多くのコア技術についても、表現されていません。これらの要素を加えることで、メッセージ性があり説得力のあるページになると思料します。
- 「フジクラグループの中長期的成長へのロードマップ」として、「2020年中期経営計画」「100日プランによる構造改革」「2025年中期経営計画」「Beyond2025」の4つが見開きで説明されました。フジクラグループの経営の歩みを理解する上で有益だと思うのですが、過去の経営計画と今後に向けた現在進行中の計画が混在しており、一見して内容が把握しづらいものとなっています。過去と将来を色分けして示す、いつ策定されたものなのかを示すなど、表現上の工夫があるとよいと思います。また、すでに期間が終わっている過去の計画における目標に対しては、その実績を示していただきたいと思います。
- 環境課題及び社会課題に向き合う製品・サービスに付与する制度として「グリーンPLUS」が新設されたことが説明されています。自社の製品・サービスを通じて社会の課題解決に貢献していくという方向性は素晴らしく、ぜひ追求していただきたい取り組みです。この制度を効果的に訴求していくうえでも、「グリーンPLUS」の認定基準を開示していただきたいと思います。既存のグリーン製品との関係性にも配慮し、環境配慮型製品の全体像を説明することで、製品特性のアピールになるのではないかと思います。カーボンニュートラルに貢献するビジネス創出を計画するBeyond2025との関係性も外部からは分かりづらいので、説明があると良いのではないでしょうか。
- サステナビリティ経営を追求する方向性を明確に打ち出しているにも関わらず、組織の仕組みとしての対応がなされていないという点が、最後の改善策として申し上げる内容となります。人財育成の一環としてキャリア形成支援に力を入れており、階層別研修と非階層別研修に分けて研修体系が示されていますが、サステナビリティに関する要素が入っていません。同様のことが、取締役及び執行役員のスキルマトリクスにも言えます。また、取締役の報酬を決める要素の中に、サステナビリティを加える企業も増えつつあります。サステナビリティ経営を着実に進捗させるための組織のあり方の検討が必要ではないかと考えます。
今回の報告書全体から、フジクラグループがサステナビリティ経営を重視する姿勢が強まっていることを感じます。「サステナビリティ経営の基本方針」をCEOメッセージの直後に配置し、財務ハイライトと非財務ハイライトを続けて掲載する構成からも、この意識が伝わってきます。サステナビリティ経営を説明する指標として、非財務ハイライトは重要です。社外取締役の目黒氏が指摘するように、非財務情報の多くは将来の財務に影響を与えるものでありますし、そのような認識が経営陣にも共有されていることが伺えます。国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)が「非財務情報」ではなく「サステナビリティ関連財務情報」と定義しているように、サステナビリティの取り組みはもはや財務情報の一部と捉えられています。
2025年は次期中期経営計画を検討する重要な年となります。現在進行中のサステナビリティ課題に関するマテリアリティの見直し結果を踏まえた目標及びKPI設定により、グループ全体での取り組みを着実に前進させることで、企業価値向上とサステナビリティ戦略を一体化させた経営を実現していただきたいと期待しています。
ご意見を受けて

浜砂 徹
執行役員
経営企画室長
当社の統合報告書に関しまして、貴重なご意見を頂き、誠に有難うございます。
フジクラグループは、サステナビリティ経営を経営戦略に取り入れていく姿勢を持っています。今回のご意見を真摯に受け止め、報告書の改善や取り組みの拡充に取り組んでまいります。2025年度に策定を行う次期中期経営計画に向けて、経営戦略としてのマテリアリティの見直しや目標・KPIの設定にも取り組み、企業価値向上とサステナビリティ戦略の一体化を実現してまいります。引き続きご意見やご要望をお寄せいただき、より良い報告書を作成できるよう努めて参ります。