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ESG

フジクラグループのCSR

第三者意見 / ご意見を受けて

第三者意見

本木 啓生 株式会社イースクエア 代表取締役社長

本木 啓生
株式会社イースクエア
代表取締役社長

 フジクラグループにとって3年目となる統合報告書2020は、レポーティングとしての改善が随所に見られています。リスクと機会、ブランド向上に向けた視点など価値創造モデルを構成する各要素が拡充されており、例えば、昨年は社会課題の変化として取り上げていたのは脱炭素社会とSDGsのみでしたが、今年はリスクと機会の観点より多様化・複雑化するお客様ニーズとして新型コロナウイルスの影響、産業構造の劇的な変化を始めとした具体的な要素を挙げています。目指す姿の実現に向けた経営資本も、国際統合報告評議会(IIRC)が発行する国際統合報告フレームワークで示す6つの資本(財務資本、人的資本、製造資本、知的資本、社会関係資本、自然資本)について自社が重視すべき具体的な指標を示しています。

 さてフジクラグループは現在、厳しい事業環境に直面しています。急激に悪化した財務状況の立て直しが最優先事項との結論により事業再生フェーズに入っており、全社を挙げて断行する「100日プラン」についての詳述があります。財務状況の悪化により、2020年度を最終年度としていた5か年中期経営計画の継続も断念せざるを得ず、「早期事業回復への集中」に方向転換をしているのが現状となっています。

 このような事業環境下にあるフジクラグループではありますが、だからこそなおさら中長期における企業価値向上の観点よりマテリアリティを明確化していくことが重要だと考えます。本報告書では、「4つのマテリアリティ」および「CSR重点方策2020」としてマテリアリティが説明されているのですが、社内の企業活動が中心で限定的な要素となっています。しかし、投資家を含むステークホルダーが開示を求めるマテリアリティは、「フジクラの未来:2030ビジョン」により、「情報通信事業領域での成長を通じて世界中の社会課題への貢献」を銘打つフジクラグループにとってサステナビリティの観点よりどのようなリスクと機会があるのかということだと思います。

 マルチステークホルダーが関心を持つ環境・社会視点でのマテリアリティと、投資家が関心を持つ中長期的に企業の成長、業績などにどのような影響を及ぼし、投資家の意思決定に影響を与えるかを勘案するための企業を価値創造の視点から捉えたマテリアリティの選定が鍵となります。今、経営陣自らが中長期的な事業戦略を踏まえた2つの視点のマテリアリティを厳選し、経営の立て直しとともに全社を上げて取り組む重要課題として語っていくことが求められていると考えます。

 気候変動については、新規事業開発を含む事業戦略との関連性が示されていません。社内の取り組みとしては、2050年CO2排出ゼロに向けた道筋として2030年に向けた削減目標と具体的な方策を示していくことはいずれの企業にも求められることになりますが、それ以上に世界の主要な国や企業が2050年ネットゼロを実現すべく脱炭素社会に向けて舵を切りつつある中で、フジクラグループが担うべき役割を示して頂きたいと考えます。TCFDのフレームワークにより分野ごとに機会となる要素が示されたことは一歩前進ですが、環境長期ビジョン2050における4つのチャレンジの枠組みを超えて、事業戦略の視点より語る必要があります。

 SDGsについても事業戦略との関連性を示すことを提案します。フジクラグループが「持続可能な “みらい”社会」を目指していく上で、不可欠なマイルストーンとなるであろうSDGsに対して、自社としての捉え方、今後の事業戦略との関係性を示すことは大切です。国連財団、各国政府、金融大手など多数の有力組織が後押しするワールド・ベンチマーキング・アライアンス(WBA)が注目されています。SDGsが目標達成を目指す2030年まで残りわずか10年となった危機意識の中で、各産業とそのサプライチェーンの中心にあり、社会システムを変革してSDGs の結果にインパクトを与える可能性が最も高い「キーストーン企業」が、WBAにより2,000社選定されています。フジクラグループもその中の一社として挙げられており、SDGsの推進状況について世界から注目を集めることになるでしょう。

 当報告書は全般的に、財務に直結する事業に関する情報とそれ以外の非財務情報をさらに統合させるべきではないかとの印象を受けています。TCFDが伝える重要なメッセージは、気候変動を財務情報として捉えることにありますが、気候変動のみならず、ほぼすべての非財務は最終的には財務情報へと収斂されることにもなります。ESGが経営と一体化することが急務となるなかで、新設されたサステナビリティ戦略会議の役割はことさら重要となり、気候危機を始めとする世界で共有されるサステナビリティに関する危機感を自社ではどのように捉えるのか、事業機会とリスクの観点から事業戦略をどのように見直していくのか、真剣な議論が不可避です。持続可能な“みらい”社会の実現に向けた幅広いセクターを「つなぐテクノロジー」により支え続けるフジクラグループの活躍に期待をしています。


ご意見を受けて

関川 茂夫 常務取締役

関川 茂夫
常務取締役

 今回も第三者意見をいただきありがとうございます。
フジクラグループは現在、事業再生に向けた「100日プラン」を実行中であり、非常に厳しい事業環境となっています。「早期事業回復への集中」を基本戦略に据え、重点施策を「既存事業の聖域なき『選択と集中』」及び「グループガバナンスの強化」の2点に絞り、事業構造改革を断行し、またグループガバナンス推進室の設置などによるリスク管理の更なる徹底を図ってまいります。一方で、日本政府による「2050年カーボンゼロ宣言」やTCFDによる気候変動関連情報開示要請の更なる高まり、機関投資家のESG視点も踏まえた企業価値算定など、気候変動対応に関して企業に向けられる目が一段と厳しくなっていると感じています。
そのような状況のなか、フジクラグループは気候変動対応に関する長期ビジョンとして、2016年にフジクラグループ環境長期ビジョン2050を制定し、2050年の未来を見据え、環境負荷の最少化に向けた4つのチャレンジに取り組んでいます。TCFDの賛同やRE100への加盟を通じて、気候変動が事業活動にあたえる影響や事業機会とリスクを把握につとめるとともに、気候変動リスクの緩和にも貢献していきます。

 さて、本木啓生様より専門家としてのお立場から広い視野に立った第三者意見をいただき、コーポレートレポーティングの改善についてご評価いただきました。社会課題の変化に関する記載の拡充やIIRC統合報告フレームワークで示す6つの資本の開示など、投資家はじめステークホルダーとの建設的な対話に必要な要素として開示を拡充しました。
 一方、本年度の課題として、主に「価値創造の視点から捉えたマテリアリティの選定」「気候変動情報開示における事業戦略との関連性」「SDGs達成にむけた事業戦略との関連性」「財務と非財務の更なる統合化」についてご提言をいただきました。
 フジクラグループは、ESGの視点を経営計画に取り入れ、企業価値向上とサステナビリティの両立を実現するために、従来のCSR委員会を発展させた「サステナビリティ戦略会議(議長:社長)」を2020年に新設しました。サステナビリティ活動の各テーマに担当役員を指名し、監視監督と執行の役割を明確化するほか、年4回開催される会議で活動の進捗をモニタリングすることで、フジクラグループのサステナビリティ活動が確実に進む体制に見直しました。今回いただいたご提言一つひとつを今後の会議の重要課題として受け止め、具体的な活動への検討を進めていきます。
 現在、CSR重点方策2020の内容を見直し、2025年までのサステナビリティ新目標の設定を進めています。これは従来のCSR重点方策とは異なり、2030年ビジョン実現に向けたCSV(共通価値の創造)の実現など、より事業戦略と統合したテーマを検討しています。あわせて、財務と非財務の統合化に向けた議論を進めていく予定です。

 フジクラグループは経営理念に掲げる“つなぐ”テクノロジーを通じてお客様の価値創造と社会への貢献を追求することを不変のミッションとし、持続可能な企業の発展と社会の実現のために、気候変動などESG課題に積極的に対応し、企業グループとしての社会的責任の一端を今後も果たしてまいります。

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