フジクラ技報一覧

No.113 2008年1月
近年,発光ダイオード(Light Emitting Diode, LED)の進歩は目覚ましく,現在既に携帯電話やデジタルビデオカメラ,PDAなどの電子機器のバックライト,大型ディスプレイ,道路表示器などの表示用を中心として普及しており,自動車用ランプ,一般照明用光源としても普及しつつあります.イルミパネルは,このようなLED を利用したデザイン照明で,液晶バックライト等に代表される導光体を利用した照明の開発の中で派生した技術を一般民生向けに適用した製品です.
イルミパネルは,1 mm~3 mm程度の薄いアクリル製導光板に特殊なドット状の溝(特許申請中)を加工しており,端面から入射したLED光を正面方向に高輝度に反射します.このドット状の溝を特定のデザインとなるように多数個配置し,端面に接続したLEDを点灯させることで点描デザインが高輝度に反射します.
今回開発した溝加工技術により,通常の機械切削やレーザ加工等では得られない高い反射率を持つドットを自由な大きさと配置で作製することが可能で,LED非点灯時にはほぼ透明な状態で,点灯時には多数のLEDが浮かんでいるように表現することができます.
また,透明性を活かして導光板を複数枚積層することで表示の切り換えを行なったり,立体的な表現にすることも可能です.表紙は,当社本社ショールームの床に配置した展示品の写真ですが,3 枚の導光板を一定の間隔を設けて設置しており,導光板間やカバーガラスとの間に多重反射が生じることで実際よりも奥行き感のある立体的表現を演出しています.
現在,大手メーカとの共同開発で自動ドア用パネルの製品化をはじめ,インテリア用照明,サイン,看板,イルミネーション,誘導灯等への適用を進めております.今後はさらに当社の営業部門,事業部門一体となってお客様のご要望に応える体制を整え,家電,自動車,アミューズメント等の幅広い分野に展開していく予定です.
論文記事
光学式温度補償圧力センサを用いた水位センサ
光電子技術研究所 | : | 坂元 明 堀本 啓一 野口 善清 平船 俊一郎 酒井 哲弥 |
光学式センサは優れた電磁環境耐性,遠隔計測や多数点計測が容易などの利点がある.しかし,測定系が高価なため適用が限定されている.そこで当社では,3 心光ファイバアレイを用いた安価で高精度な光学センシング方式を開発し,温度センサと圧力センサを実現した.これらを組み合わせ,温度補償型水位センサを作製し,全温度範囲で精度± 0.3 %F.S.を達成した.
短距離伝送用細径ポリマクラッドファイバ
光電子技術研究所 | : | 岡田 健志 高橋 純一 瀧ヶ平 将人 村田 暁 松尾 昌一郎 |
短距離での高速伝送システムに適用可能な細径コアを有するポリマクラッドファイバの検討,試作を行った.本ファイバとVCSEL 光源を用いることにより,伝送距離20 m,伝送速度2.5 Gbps までエラーフリー伝送が可能であった.また,接続軸ずれに対して許容度が高いこと,小径に曲げた場合でも十分小さな曲げ損失を有することを実験的に確認した.
耐放射線シングルモード光ファイバ
光応用製品事業推進室 | : | 愛川 和彦 井添 克昭 社本 尚樹 工藤 学 妻沼 孝司 |
石英系光ファイバは,放射線環境下で使用されると,放射線に起因する透過光量の減少が生じる.今回われわれは,コアに最適な濃度のフッ素を添加することにより,国際標準規格ITU-T G.652.B に準拠し,かつ従来の純粋石英コアタイプの光ファイバに比べて優れた耐放射線特性が得られることを確認した.この耐放射線光ファイバは,従来の純粋石英コアシングルモード光ファイバがγ線照射1.0 × 106 R / h,60 分において約 25 dB / km の損失劣化を生じるのに対して,約 5 dB / km まで低減され,さらにその回復特性もきわめて優れていることが確認された.
融着型現場組立光コネクタ
光機器・システム事業部 | : | 岩下 芳則 土田 隆博 川西 紀行 |
光ケーブルシステム開発センター | : | 高橋 茂雄 SerinTan 瀧澤 和宏 |
Fiber To The Home(FTTH)における光コネクタの取り付け作業では,メカニカルスプライス方式の現場組立光コネクタが一般的に使用される.しかしFTTHシステムの中には,低反射接続やケブラ入り光ファイバコードとの堅牢で容易な接続が要求される場合がある.この市場要求に応えるため,容易な組立作業性と高信頼性を実現した融着型現場組立光コネクタとその周辺工具を開発した.
FTTH 向け屋外設置用小型光スプリッタモジュール
光ケーブルシステム開発センター | : | 百津 仁博 緒方 和也 |
Fiber To The Home(FTTH)を経済的に構築するネットワークとしてPassive Optical Network(PON)システムが広く普及してきている.PON システムでは,1 本の光ファイバを複数のユーザが共用するため,光信号を分岐する光スプリッタが不可欠となる.近年,光スプリッタの敷設工事を簡素化するため,モジュール化,コネクタ化されたPlug & Playできる構造が求められている.また,光スプリッタモジュールは,屋外に設置されるため,厳しい環境に耐えられる高い信頼性が必要であり,さらに,小型化,低コスト化も要求される.そこで,当社では経済性に優れた難燃プラスチック樹脂を筐体に用いて,屋外設置環境に耐えられる光スプリッタモジュールを開発した.光スプリッタモジュールは,良好な光学特性を有し,十分な信頼性があることを確認した.
低摩擦・耐摩耗光ドロップケーブル/超低摩擦光インドアケーブル
光ケーブルシステム開発センター | : | 塩原 悟 岡田 直樹 下道 毅 竹田 大樹 |
光電子技術研究所 | : | 村田 暁 伊佐地 瑞基 |
FTTH の普及にともない市街地の架空配線エリアでは架空光ケーブルの輻輳化が問題となっており,スパイラルハンガなどを用いて1 本の吊り線に多条の光ドロップケーブルを吊架する布設方法が一般的となっている.同一のスパイラルハンガ内に多条の光ドロップケーブルを布設する場合,既設の光ドロップケーブルと後から引き込む光ドロップケーブルとが擦れ合うため,光ドロップケーブルの外被の低摩擦化および高強度化の要求が高まっている.布設作業性を向上させることを目的として,低摩擦・耐摩耗光ドロップケーブルを開発した.また,CD 管などの電線管への通線作業性を向上させることを目的として,超低摩擦光インドアケーブルを開発した.
受動部品内蔵フレキシブルプリント配線板
電子電装開発センター | : | 朽網 寛 小川 泰司 藤浪 秀之 |
電子デバイス研究所 | : | 佐藤 正和 |
フレキシブルプリント配線板(FPC)上に,エッチングプロセスにより形成した受動部品を積層することで受動部品内蔵FPC を作製した.内蔵された部品の電気的な特性は,エッチングにより形成される部品の構造により制御可能であることを示した.
新層間接続技術-CBIC-
電子電装開発センター | : | 北田 智史 |
東北フジクラ | : | 宇波 義春 |
複数の配線層が積層されたプリント基板における層間接続技術として,従来スルーホール(TH)あるい はレーザビアホール(LVH)などが用いられている.それらに加えて,全く新しい接続技術として,銅ボー ルを用いた層間接続技術(CBIC)の開発に着手した.これは,銅ボールと銅箔を高温下で圧接することで, 両者が強固に密着することが明らかとなったためである.CBIC は従来技術と比較して,工程不良の削減, 接続信頼性の向上などの効果が期待される.
車載用イルミロッド
自動車電装事業部 | : | 石川 幸毅 百田 敦司 |
光応用製品事業推進室 | : | 上片野 充 |
株式会社フジクラコンポーネンツ | : | 作山 功 |
近年の自動車では,ブランドやグレードを差別化するためにLED を使った積極的なデザインの照明やイルミネーションが採用されている.今回,車載向けにライン状導光体(商品名「イルミロッド」)を使用したバックライト用の光源を開発し,量産化したので報告する.開発段階では追加工品による迅速な試作で顧客のニーズを明確にし,量産向けには射出成形品で同等の性能を再現することができた.
超電導マグネット
材料技術研究所 | : | 富士 広 花田 康 三浦 貴博 羽生 智 柿本 一臣 飯島 康裕 直江 邦浩 齊藤 隆 |
イットリウム系超電導線材は,高い通電特性を有しているため,変圧器,モータ,限流器などの各電力機器への応用が検討されている.当社では,Ion Beam Assisted Deposition(IBAD)とPulsed LaserDeposition(PLD)法を用いてイットリウム系超電導線材の開発を行っている.本報では現在の線材開発の状況と,開発した線材を用いた伝導冷却型マグネットの通電試験の結果について報告する.
ポリ乳酸被覆電線
材料技術研究所 | : | 中司 徹 |
植物由来ポリマであるポリ乳酸は,生分解特性だけでなく,化石資源の節約やCO2 発生量低減の観点から,対環境性の良いプラスチックといわれている.既にいくつかの商品で実用化されているが,電線での実用化はされていない.そこで,当社では,ポリ乳酸と柔軟化処方を施したポリ乳酸で絶縁電線を試作・評価し,ポリ乳酸の電線への適用の可能性と課題を検討した.
2 チップSi圧力センサ
電子デバイス研究所 | : | 小山内 清隆 伊藤 清成 松木 幸生 橋本 幹夫 村重 伸一 塩尻 健史 三谷 尚吾 |
高精度化,圧力レンジや動作温度範囲の拡張,あるいは駆動電圧や出力電圧範囲の変更など,多様化するユーザニーズに対して柔軟に対応可能な汎用圧力センサとして高性能でカスタマイズ性に優れる,Si圧力センサチップとその信号処理チップを分離したいわゆる2 チップSi 圧力センサを開発して,- 40 ~125 ℃の広い温度範囲で動作し,0 ~ 85 ℃における総合精度± 1.5 %FSを達成した.