フジクラ技報一覧

No.105 2003年10月
通信サービスのブロードバンド化は著しい速さで進み, 市場ではブロードバンドの最終形ともいえる「FTTH(ファイバ・トゥ・ザ・ホーム)による高速通信サービス」の普及がいよいよ本格化しています.
われわれフジクラは光ファイバおよびその関連製品のトップランナーとして, 光ケーブルや光通信関連機器・部品の設計, 施工, 保守を通して, FTTHや地域情報化の光ネットワークの構築・維持管理に貢献してきました.
表紙には, フジクラの光ケーブル配線部材・通信ネットワーク関連機器とそれらを用いた光ファイバネットワークの構築例を示しています.
われわれフジクラは, 長年養ってきた光ファイバ・線路部材・通信ネットワーク関連機器の技術とネットワークエンジニアリングのノウ・ハウにより, お客様の光ネットワークの構築・維持管理をトータルソリューションでお手伝いします.
表紙の光ケーブル配線部材・通信ネットワーク関連機器は, 左上から時計回りに, 架空クロージャ, スプリッタ, メカニカルスプライス, メカニカルスプライス接続工具, 集合住宅用成端箱, 成端箱(一般用), 19インチラック用成端箱, 現場組立光コネクタ組立工具, 現場組立光コネクタ, アウトレット, 屋内光ローゼット, 屋外成端光キャビネット, 地中クロージャ, 光コネクタ付きコード, 光カプラモジュール, 成端架(写真右), 光線路試験・監視システム(写真左)となっています.
論文記事
フェムト秒レーザ加工による長周期ファイバグレーティング
光電子技術研究所 | : | 藤井 朋子 福田 武司 石川 紫文 石井 裕 佐久間 健 細谷 英行 |
フェムト秒レーザの集光照射によって誘起される透明材料内部の局所的な屈折率変化を利用した光デバイス開発が注目を集めている.この技術を用いて作製した長周期ファイバグレーティングは優れた熱安定性を持つことから,高温領域でも動作可能な温度センサなどとしての応用が期待できる.今回われわれは,フェムト秒レーザの集光点付近で発生する白色光を指標とすることで,光ファイバのコア中心部に精度よく屈折率上昇領域を誘起した.その結果,優れた損失スペクトル形状を有し,過剰損失の小さい長周期ファイバグレーティングを再現性よく実現したので報告する.
接続損失を低減した低曲げ損失光ファイバ
光電子技術研究所 | : | 池田 真挙 松尾 昌一郎 姫野 邦治 原田 光一 |
FTTH(Fiber To The Home)の進展にともない,より小さな曲げ径で敷設や余長収納可能な光ファイバが求められている.しかしながら,従来のSMF(Single-Mode Fiber)の構造で曲げ損失を低減可能な設計を採ると,大幅に接続損失が増加してしまう.われわれは,新たにトレンチ型屈折率分布を採用することで,曲げ損失を低減しつつ接続損失を抑制可能な光ファイバを開発した.試作したファイバのうち許容曲げ半径7.5mmに設計したファイバの1,310nmにおけるSMFとの接続損失は0.32dBであり,従来の低曲げ損失ファイバの約半分の接続損失を実現した.
FTTH(Fiber To The Home)用新型メカニカルスプライスおよび現場組立光コネクタ
通信事業部 | : | 瀧澤 和宏 山口 敬 斉藤 大悟 古川 洋 |
FTTH(Fiber To The Home)を経済的に実現する技術の一つとして,われわれは低価格な小型単心メカニカルスプライスを開発した.本メカニカルスプライスは精密熱可塑性樹脂を使用したインジェクション成形技術により生産され,平均接続損失は0.03dBを達成している.また,一連の機械特性,耐環境特性など長期信頼性試験でも良好な結果を得ている.FTTHで必須の架空クロージャでの作業を考慮し,本メカニカルスプライスの組立工具は小型・軽量(165g)とした.また続いて,メカニカルスプライスの技術を応用し,現場で短時間で組み立てることが可能な光コネクタとその組立工具を開発した.新型コネクタ(くさび付コネクタ)の検討結果とあわせて報告する.
シリアルATAケーブル
電子部品開発センタ | : | 安部 知明 芦田 茂 桑原 浩一 小笠原 孝 |
フジクラタイランド社 | : | 森田 浩康 篠原 知幸 |
第一電子工業株式会社 | : | 山田 昭男 樋下田 拓也 |
フジクラアメリカ社 | : | 菊池 仁 佐藤 一宏 大塚 秀文 |
コンピュータのデータの保存としてHDD等の記憶装置が一般に使用され,これらは従来パラレルバスを用いてデータのやりとりがなされている.今日個人があつかう情報量は飛躍的に増大しており,PCでも60GB,80GBの容量をもつ機種も珍しくない.PCとHDD間のデータ転送方式はアメリカ規格協会(ANSI)によってATA(At Attachment)規格として標準化されてきたが,従来のパラレル伝送方式をシリアル伝送方式として高速化したシリアルATA規格が2001年に標準化された.
今回当社ではシリアルATA規格に基づくケーブルを開発し,第一電子工業株式会社のコネクタと接続加工して評価を行った.インピーダンス変動やスキューが小さい等満足できる結果が得られた.
エコ難燃メンブレンスイッチ
電子部品開発センタ | : | 大森 喜和子 石井 崇裕 今井 隆之 唐沢 範之 羽賀 荘一 |
プリント回路事業部 | : | 川上 裕之 |
材料技術研究所 | : | 石田 克義 |
LTEC Ltd. | : | 腰原 優智 |
藤倉化成株式会社 | : | 渡邉 博明 高野 敦俊 |
当社では,メンブレンスイッチ,およびメンブレンスイッチと機構部品とを複合化したメンブレンスイッチモジュールを製造,販売している.これらの製品はデジタルカメラやデジタルビデオカメラなどに使用されており,UL認定を要求される場合が多い.UL規格の燃焼試験に合格するため,これまでは軟質塩化ビニル系樹脂を回路にオーバーコートすることによりメンブレンスイッチを難燃化してきた.しかし近年環境負荷低減の要求が強く,不完全燃焼時にダイオキシンを発生する塩化ビニルおよびその他のハロゲン系化合物の使用規制は増加する傾向にある.本報では,ハロゲン系化合物を使わずに難燃化を実現し,従来の塩化ビニル系樹脂コーティングと同等の機械的特性,電気的特性を維持したエコ難燃メンブレンスイッチの開発に成功したので報告する.
ハロゲンフリー多層基板
電子部品開発センタ | : | 守屋 英紀 高橋 克彦 桜井 洋文 |
材料技術研究所 | : | 市川 雅照 千艘 智充 |
環境負荷を低減した製品に対する需要の高まりを受け,ハロゲンフリーリジッド-フレックス多層基板(R-F基板)の開発に着手した.開発を進めていくと,R-F基板はフレキシブルプリント配線板(FPC)より高い耐マイグレーション性が要求されることがわかった.このため各種性能評価のうえ,材料選定,加工条件の最適化を行い,現行量産品レベルまで諸特性を改善する見通しを得た.
超音波フリップチップ実装FPC
電子部品開発センタ | : | 圓尾 弘樹 関 善仁 宇波 義春 |
東北フジクラ | : | 大湊 忠則 |
フリップチップ実装によって配線板の小型化や高密度化が達成されたが,半導体の高機能化や高集積化は依然急速に進んでおり,狭ピッチ接続対応という点で,従来のフリップチップ工法では限界が近づいてきている.
当社では,より狭ピッチの実装が可能なフリップチップ工法として超音波フリップチップ工法に着目し,FPC上への実装検討ならびに評価試験を行った.その結果,FPCへの超音波フリップチップは,接続性・信頼性ともに十分であることを確認した.また,狭ピッチ適応のみだけでなく工法タクト短縮により従来工法よりも生産性の向上も期待できる.
HDDサスペンション用FPC
電子部品開発センタ | : | 水谷 宗幹 ポンパンパニーアナン |
電子デバイス研究所 | : | 永田 雅克 中尾 知 |
プリント回路事業部 | : | 植田 広二 |
HDD(Hard Disk Drive)装置におけるサスペンション上への微細回路形成はすでに普遍化している.サスペンション上への回路形成には種々の工法が用いられているが,FPC法と呼ばれるサスペンションにフレキシブル基板を貼り合わせる回路一体型サスペンションは,他の工法と比較して低コストや転送特性の点で優位である.われわれは,今後急増が予測されているAV(Audio Visual)機器搭載HDD用として,中継基板が一体化されたサスペンション用FPCを開発した.本開発のFPCの加工には,HDD用FPCとして最適化した湿式エッチング技術を採用し,100µm以下の解像度を得るとともにダストフリー化を可能とした.
高密度貫通配線を有するシリコン基板
横浜国立大学 | : | 澁谷 忠弘 于 強 |
電子デバイス研究所 | : | 中村 裕成 和田 英之 糸井 和久 山本 敏 末益 龍夫 滝沢 功 |
次世代のパッケージ技術として,シリコン基板に貫通配線を形成する技術が注目されている.当社では,イメージセンサやマイクロミラー等のMicro Optical Electro-Mechanical System(MOEMS)への応用を目的として,高密度貫通配線を有するシリコン基板の試作と,基本的な特性の評価を行った.さらに,有限要素法を用いて貫通配線の構造解析を行った結果,充填金属とシリコン基板との間にはクラックの原因となるような高い応力は発生しないことが判明した.
エンジンコントロールユニット(ECU)冷却ボックス
機器電材事業部 | : | 八藤後 勇 諏訪田 睦 長谷川 健 小杉 秀之 |
近年,自動車のエレクトロニクス化にともない,電装機器などが増加するためワイヤハーネス(以下,ハーネス)はますます肥大化する傾向にある.一方,自動車の燃費向上のため軽量化対策が実施されており,ハーネスの質量削減も大きな課題となっている.当社の顧客において2003年4月に発売された新機種の自動車では,ハーネス軽量化の一つの手段として,従来室内にあるエンジンコントロールユニット(以下,ECU)をエンジンルーム(以下,E/R)内に配置させている.それにより,今までECUに接続するため室内へ伸ばしていたハーネスがE/R内だけで対応できるため,ハーネスを削減させることが可能となった.
しかし,ECUをE/R内に配置させるためには,従来室内環境仕様のECUをE/R内環境仕様にしなくてはならず,ECUのコストアップになってしまう.そこで,今回当社が開発した冷却機能と防水機能を有するボックスによって,E/R内に室内環境仕様のECUを配置させることを実現できたので報告する.