気候変動への対応

気候変動リスクと機会の特定とその対応

フジクラは、サステナビリティ目標2025で掲げた各項目の進捗確認を毎年行うことをリスク管理の一環としています。この目標は、フジクラグループ環境長期ビジョン2050と連動しており、GHG(温室効果ガス)排出量の削減目標やTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)対応などを重点施策として設定しています。毎年の進捗確認と今後の対策検討を行うことで適切な対応が図れる体制を整備しています。

低炭素経済に移行する過程で起こりうるリスクと機会の特定を進めています。
気候変動がフジクラグループの事業成長にどのような影響を与えるのかを分析するために、国際研究機関(OECD、IPCC)等の長期予測や社会的な関心事、顧客からの気候変動対応要請などを踏まえています。
特定したリスクは適宜見直しています。

リスク

分類 気候変動リスク 今後の対応
2℃シナリオ
(移行リスク)
短期・中期
政策・法律リスク
  • 炭素税の導入など各国地域におけるCO₂排出規制強化
    ─炭素税による財務への影響を試算
  • 顧客や操業国からの温室効果ガスやカーボンフットプリントの削減要請義務
  • 環境長期ビジョン2050に基づく、再生可能エネルギー100%へのロードマップによって、徹底した省エネ、再エネ導入、クレジット等の活用を進める
  • 事業活動における再生可能エネルギー利用の推進(本社・工場など)
  • RE100加盟やTCFD賛同による対応強化・ESG評価指標の定期的なモニタリングと対応
技術リスク
  • 既存技術のディスラプト
  • 製品製造時のエネルギー使用量の最小化や再生可
    能エネルギー利用等の要求
市場リスク
  • 商品、サービスに対する需要の変化
  • 顧客や社会からの気候変動対策による一時的な設備投資コストの増大
  • 気候変動関連要因による原材料価格の上昇や調達先の分散
評判リスク

顧客や投資家、各種評価機関からの気候変動に関する情報開示と対応要請

4℃シナリオ(物理リスク)
中期・長期
急性リスク
  • 洪水や大型台風など自然災害による操業への影響
    ─ 生産設備に被害を受けた場合、生産能力の低下や設備修復など、業績への影響
    ─ サプライチェーンの分断などによる生産計画への影響
    → フジクラグループは2011年にタイ王国洪水によりグループ会社が甚大な被害を受け、復興まで5年を要した
  • 対象拠点の防災対応
    ─2011年の洪水被害を教訓に、BCPの観点からも拠点の分散化や事業所周辺の防水壁の建設などを実施
  • 事業所の法面整備や海辺に近い工場における高潮、津波対応
    ─洪水や海面上昇で影響を受ける国内拠点 本社、フジクラハイオプト(東京都江東区木場)、沼津熔銅(静岡県島田市金谷泉町)、西日本電線(大分県大分市春日浦)
    *各行政のハザードマップを調査
慢性リスク
  • 気温上昇等による操業地域で働く社員の健康配慮
  • 降雨量増加による従業員の安全性の確保
  • 将来的な海面上昇における操業への影響

機会

各事業 社会動向 機会
情報通信
  • デジタル化の進展により、データ流通・蓄積・解析量が指数関数的に増大
  • ビッグデータ、IoT、5G、AIなどのデジタル技術を活用した新サービス事業が急速に拡大
  • CASE/MaaSの進行
  • ミリ波(無線通信)
  • 4℃シナリオ下での自然災害対応懸念
  • 細径高密度型光ファイバケーブル(SWR®/WTC®)を中心とするソリューションの展開
  • グリーン関連製品の拡大
  • 高効率ITシステム関連製品
  • デジタル技術活用の推進
  • 社会インフラとしての通信線レジリエンス強化
エレクトロニクス
  • 産業用ロボットの増加
  • 医療用製品への参入
  • 車載用電子部品の増加
  • ミリ波対応部品の増加
  • CASE対応研究開発の推進
  • デジタル技術活用の推進
  • グリーン関連製品拡大
  • 産業用、自動車用コネクタの需要増
自動車

CASEの進行

  • 電子部品の増加に伴うワイヤハーネスの増加
  • 2℃シナリオでのEV化の進展
  • ワイヤハーネス軽量化の需要増加
  • 軽量化ワイヤハーネス
  • CASE対応研究開発の推進
  • 自動車事業に情報通信やエネルギー事業などの知見を組み合わせ、EV関連の新規事業創出
  • ワイヤハーネス以外の自動車部品やEVへの対応強化
  • グリーン関連製品拡大
エネルギー
  • 経済成長、都市化、人口増加により、途上国を中心にエネルギー需要、特に電力需要が増加
  • デジタル技術の活用による、電力供給の安定化、効率化、2℃シナリオでの省エネ進展
  • 企業、個人などのエネルギー供給・需要双方の多様化、2℃シナリオでの再エネ増大
  • 4℃シナリオ下における自然災害の増加懸念
  • 無電柱化推進法への対応(防災など)
  • 再生可能エネルギーの普及拡大
  • グリーン関連製品拡大
  • 高効率電力システム関連製品
  • デジタル技術活用の推進 • 電線/ケーブル等社会インフラのレジリエンス強化
不動産

デジタル技術活用の推進

  • ZEBなど環境影響配慮のニーズ
  • 環境配慮を要求するテナントの獲得と維持

リスクへの対応

特定したリスクへの対応や今後の検討は、環境担当役員である常務取締役が委員長を務めるフジクラグループ地球環境委員会にて承認・決定しています。CSR 重点方策で定めた活動計画の実績報告とあわせて、フジクラグループ地球環境委員会で情報の共有と対応案の検討と承認を行い、サステナビリティ戦略会議へ報告しています。また、フジクラグループ各拠点の使用電力、水、廃棄物などの環境データを入力・評価・分析し、年2回フジクラグループ地球環境委員会にて実績確認、計画見直しなどを行っています。

機会への投資

フジクラグループの主力製品である光ファイバケーブルは、世界的な情報通信量の増加から需要増が見込まれています。また、地球温暖化に端を発した温室効果ガスの排出削減要求の高まりにより、製造時における温室効果ガス排出量のより少ない製品が顧客より求められてくると予想しています。これらをフジクラグループの重要な機会ととらえ、佐倉事業所にSWR®新工場を建設・稼働を開始しました。この新工場は屋根置き太陽光パネルを導入し、カーボンニュートラル工場とする予定です。

佐倉事業所 建設中のSWR®新工場
佐倉事業所 建設中のSWR®新工場

財務への影響

フジクラグループは、将来の被災リスクに備え以下の投資をこれまでに行っています。
フジクラ佐倉事業所は、過去に豪雨による法面崩落事故を経験しました。近年、気候変動により回数が増している豪雨に備え、2016~2019年度にかけて法面整備を進めてきました。(費用:5.8億円)
西日本電線の大分工場は、大分湾に面しており、台風時の高潮、津波による被災リスクを抱えています。これに対応し、2017年度、500名の従業員が避難可能な新事務棟を建設しました。(費用:4.6億円)

佐倉事業所の法面工事
佐倉事業所の法面工事
西日本電線の津波避難タワー
西日本電線の津波避難タワー

CO₂排出量の削減 方針・ガイドライン

フジクラグループは、2025環境管理活動指針を定めました。RE100目標値として、「2030年度において再エネ率45%達成」として、CO₂削減量を定め、海外拠点も共通した目標としました。
CO₂総排出量の削減として、2023年7月、SBTの認定を取得し、Scope1,2を2030年度33%削減(2020年度比)、Scope3を2030年度15%削減(2020年度比)を目標としています。

CO₂排出量の算出方法

  • フジクラグループのCO₂排出量は、年度毎のエネルギー別消費量に、エネルギー種類毎のCO₂排出係数を乗じて算出
  • GHGプロトコルのスコープ2ガイダンスに示されたマーケット基準排出係数の使用に準拠
  • 基準年度 国内・海外:2020年度
  • 換算係数
    国内電力:環境省・経済産業省公表直近年度の電気事業者別調整後排出係数
    海外電力:IEAが公表した直近年度の国別排出係数
    国内外燃料:環境省が公表する直近年度の排出係数

排出GHG総量と使用エネルギー

2023年度の排出GHG総量は、すべてCO₂で合計24万7千トンでした。そのうち、国内での排出は11万1千トン、海外での排出は13万6千トンでした。国内外で非化石証書によるCO₂のオフセット量は以下の通りです。

  • 国内:FIT非化石証書 1.9千トン
  • 海外:(タイ王国)I-REC 2万8千トン (中国)緑色電力証書 1万0千トン

サプライチェーン排出量の算定(スコープ1、2、3)

フジクラでは2023年7月のSBT認定取得を機に、Scope3の算定・開示範囲を国内グループから海外グループにまで拡大しました*1。カテゴリの分類を見直し、また、これまで算定が行えていなかった下流のカテゴリの排出量の計算も行っています。「カテゴリ11 販売した製品の使用*2」が最も大きくなっていますが、これはフジクラグループ会社が販売する電線・ケーブルの送電損失による排出となります。2023年度のScope3は大きく減少し、フジクラグループのSBT目標2020年度比で15%削減をクリアしています。これはカテゴリ11対象の電線の出荷数量が減少した影響が大きいと考えています。そのため目標を再設定する前に、引き続き2024年度の結果をモニタする予定です。

フジクラグループのScope1,2,3算定結果

カテゴリ11を含む算定結果

カテゴリ11を含む算定結果

カテゴリ11を排除した算定結果

カテゴリ11を排除した算定結果

*1 組織境界にGHGプロトコルの支配力基準の考え方を適用し、フジクラグループの算定範囲を定めました。そのためAFLグループの排出量を算定に含めていません。

*2 カテゴリ11の送電損失による排出は、ジュール熱の発生による電力損失から計算を行っています。算定にあたって、ケーブルの使用率のデータ入手が困難であるため推定値を使用しています。フジクラのScope1, 2と主カテゴリの排出量の変遷が見やすいようにカテゴリ11を含めたグラフと除外したグラフを作成しています。

2023年度の活動結果

フジクラグループ2025環境管理活動指針(25環境指針)として2023年度は「CO₂排出量を2020年度比9.9%以上削減」を目標に活動を行いました。省エネでは全社における継続した活動を展開しており、排出削減に貢献しています。特に削減量が大きい施策は、情報の共有化や他拠点での適用を進め、最大限に削減効果が出るようにしています。フジクラグループ全体でCO₂排出量は、非化石証書によるオフセットを含め24万7千トンで2020年度対比29%減少となりました。

2023年度の主な取り組み

安全衛生管理は全ての活動の基本であり、大切な企業基盤、企業価値そのものです。
フジクラグループの経営者ならびに全ての従業員は、事業活動を進めるにあたり安全を最優先し、安全で働きやすい職場環境の実現と心身の健康保持増進に取り組みます。

  1. 1自社の排出するCO₂排出量の削減

    • 省エネ:生産性向上と事業競争力を高める革新的なものづくりの開発、従来型省エネ活動の積極展開
    • 創エネ:太陽光発電を用いた再生可能エネルギーの導入を決定(3拠点)
    • 購エネ:RE100等の要件を満たす適切な環境証書と再エネの調達
  2. 2サプライチェーンで発生するCO₂排出量の削減

    • 資源の再利用を推進
    • 主要原材料メーカー数社に二酸化炭素排出量削減に関するアンケートを実施
  3. 3製品のカーボンフットプリント削減

    • 一部の製品にてライフサイクルアセスメントを開始
    • 環境配慮型製品の開発

国内外CO₂排出量と生産エネルギー原単位の推移

国内外CO₂排出量と生産エネルギー原単位の推移

※電力のCO2排出係数
【国内】環境省・経済産業省公表 電気事業者別調整後排出係数(各年度の係数を使用)

輸送・移動に関する活動

物流活動に伴うエネルギー原単位改善について、2020年度実績値41.2KL/キロトンに対して2023年度は3%改善を目標としていました。これに対し、2023年度実績値については39.6 KL/キロトンとなり3.9%改善で目標を達成しました。2023年度はフジクラグループ全体として前年度と同様の出荷量だったものの、一般的にエネルギー効率が良いとされる大型車両(12t以上)の比率が前年度より高くなった影響で、原単位が改善しました。その結果、通期原単位は前年度実績値40.3KL/キロトンから1.8%改善しました。
また、資源の効率的な利用促進を継続しており、梱包材・木製ドラムの再利用を進めています。さらには、積載率向上の為に開発した2段積用治具(正式名称:電線ドラムパレット)について、利用を積極的に推進しています。

梱包材・木製ドラム再利用状況

梱包材・木製ドラム再利用状況
電線ドラムパレット
梱包材・木製ドラム再利用状況

省エネの取り組み

環境省のキャンペーン推進

フジクラグループは、地球環境にやさしい企業グループとして、環境省の進める2030年に向けた温暖化防止の新国民運動「COOL CHOICE(クール・チョイス)」に参加・登録を行い、積極的な取り組みを進めています。また、夏季の省エネやクールビズ、また冬季のウォームビズに取り組んでいます。

空調機更新、照明LED化更新

2023年度は「空調機更新」「照明LED化更新」のガイドラインを作成しました。チェックリストの運用による計画的な更新を促すことで省エネを推進します。空調機は特定フロンR22の冷媒を使用したものを優先的な更新対象とし、2025年を目安として最短の更新完了を目指します。LEDは交換可能な照明全てを更新対象とし、2030年までに95%のLED化率を目指します。

事業所での取り組み(創エネ)

佐倉事業所の第1駐車場、第2駐車場に太陽光発電システムを導入することが決定しました。駐車場に導入するタイプはカーポート式であり、近年商業施設などに導入されているものです。総パネル容量1,328kW、発電開始2025年5月末を見込んでいます。

グループ会社での取組み

国内および海外グループ会社ではホリデーモード(休日に装置の消費電力を抑えるモード)をさらに進め、間仕切りによる空調エリアの狭小化、生産調整による設備停止時間の創出、アイドル時間の短縮、運転条件変更等により、無駄なエネルギー使用の撲滅に積極的に取り組んでいます。タイ地区では、生産状況に合わせこまめに停止できるようにするための設備の改造も行っています。

水リスクに対する方針・指針

フジクラグループは、水リスクに対応するため、環境長期ビジョン2050のチャレンジ項目として「工場の水使用の最小化と排水管理」を掲げています。工場の水使用の最小化については、「使わない、繰り返し使う、きれいにして自然にもどす」を合言葉に活動を進めています。排水管理については、国内製造拠点を対象に、最終排水升における「pH」「油分」「濁度」の常時監視システムの設置を推奨しています。
また、環境長期ビジョン2050を受けた「フジクラグループ2025環境管理活動指針」では、国内外連結対象会社において、水の使用原単位を2025年度において、2020年度比5%以上改善する目標を掲げて活動しています。

水リスク領域の把握とフジクラグループの事業展開との関連

2023年3月に開催された国連水会議(United Nation Water Conference)では、"すべての人々に公平な水へのアクセスを確保する活動を緊急に拡大する"ために議論がなされました。その成果である「水行動アジェンダ」には、水危機にある世界から水が確保された世界への変革を推進するための700を超えるコミットメントが盛り込まれました。
国連水関連機関調整委員会(UN-Water)は2021年度の報告書*で、地表水の変化について、過去5年間に世界の河川流域の1/5に大きな変化があり、乾燥地域の湖の乾燥や、氷河の融解や永久凍土の融解による湖の拡大などの気候変動に起因する影響を、要因の一つとして指摘しました。
また、世界気象機関(World Meteorological Organization )は、2021年の報告書**の中で、中国北部地域、南アジア地域、地中海沿岸地域などを水ストレス***のホットスポットとしています。フジクラグループは、中国、インド、ヨーロッパに事業展開しており、引き続き、水リスクへの対応が必要性を認識しています。その対応として国内のフジクラグループ指針として、水の使用原単位を2020年度対比で1%以上削減(2025年時点で5%削減)を目標に掲げて活動しています。

* Progress on Freshwater Ecosystems 2021:
https://www.unwater.org/sites/default/files/app/uploads/2021/09/SDG6_Indicator_Report_661_Progress-on-Water-related-Ecosystems_2021_EN.pdf 
**2021 STATE OF CLIMATE SERVICES
https://library.wmo.int/doc_num.php?explnum_id=10826
***水ストレス:農業、工業、エネルギー及び環境に要する水資源量は年間一人当たり1,700m3とされ、利用可能な水の量が1,700m3を下回る場合は「水ストレス下にある」状態、1,000m3を下回る場合は「水不足」の状態、500m3を下回る場合は「絶対的な水不足」の状態を表すとされている。

過去グループ拠点で発生した水リスク

フジクラグループでは、2011年、タイ王国で発生した50年に一度ともいわれる洪水により、タイ王国地区にある製造拠点が大きな被害(水害)を受けました。その後2016年に洪水からの復興宣言を果たしましたが、これを教訓に、近隣国への製造拠点の分散化や防水壁の設置などを進めています。その後、タイ国内においては、BCP活動の中で洪水および渇水をテーマとし活動しています。また、新拠点選定に関しては、過去の洪水や標高などを十分に調査し決定しています。

2023年度の取り組み

国内外の総取水量と水資源別取水量、使用量

フジクラグループでは、事業活動に関する水の取水量と使用量を同量としています。
取水について、国内では渇水の水ストレスはありませんが、洪水に対する予防処置として、法面の整備、雨水溝の増強、防潮堤の強化等を実施しています。
2023年度の水使用量は、2022年度より国内は増加、海外は減少し、国内・海外の合計では1.64%の増加となりました。水源別では、上水は減少、工業用水・井戸水は増加しました。

水源別取水量

水源別取水量

総取水量

総取水量

国内の排水量

2023年度の国内排水量は、2022年度より5.2%増加しました。再稼働した工場での井戸水の使用量の増加に伴い、排水量も増加しました。国内拠点の排水について、ほぼすべての拠点で、最終排水升での、pH、濁度、油分の自動監視を実施しています。

国内排出量

国内排出量