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ESG

フジクラグループのCSR

第三者意見 /ご意見を受けて

第三者意見

本木 啓生 株式会社イースクエア 代表取締役社長

本木 啓生
株式会社イースクエア
代表取締役社長

 フジクラグループ統合報告書2023は、事業を通じてサステナビリティを実現させようとする意思が随所に見られる報告書になっていると感じます。CEOメッセージでも、『社会の持続可能な発展や社会課題の解決に、グローバル製造業の立場から貢献するには、「サステナブルな経営の実践」と、「サステナブルな社会の構築に役立つ製品開発」の両輪が必要』と明記しており、自社のサステナビリティと社会のサステナビリティの両軸を同時に追求していこうとする意気込みを感じます。

 2023年5月に発表された新中期経営計画では、持続可能な社会に向けた2025年以降の中期計画移行も見据えた重点分野として「高温超電導材料」「ファイバレーザ」「EVにおける超高速充電技術」といった3分野を抽出しており、サステナブルな社会に貢献できる新事業の種を見出すことができます。これまで漠然としたイメージしか書かれていなかった価値創造モデルのアウトプットにおいても、フォアキャスト思考及びバックキャスト思考として、これらの重点分野を含めた製品カテゴリーが具体的に書き加えられ、説得力が増しています。

 情報インフラの主軸としては、フジクラグループの革新的な光技術をベースとした光配線ソリューションと高速無線通信技術を掲げています。有線に加えて無線ということで、いずれも“つなぐ”技術の追求となり、「“つなぐ”テクノロジーを通じ顧客の価値創造と社会に貢献する」というミッションにも叶うものとなっています。各事業部門の報告において、SWOT分析を開示したことや社会・環境課題への対応を明記したことで、各事業の状況や見通し、サステナブル社会との関係性に関する理解が深まる報告書となっています。

 個別の取り組みにおいては、人的資本に関してダイバーシティ&インクルージョンを重点施策の一つとして力を入れているということで、新規採用における女性比率が高まっていることは好ましい点です。女性活躍推進行動計画としてセミナーや仕組み化、多様なロールモデルとの交流機会などの具体的な取り組みついても、今後の進捗報告を期待したいと思います。

 カーボンニュートラルのページでも言及があると良いのですが、佐倉事業所内に建設予定の革新的な光ケーブルとなるSWRの新工場では、2025年の稼働開始時よりCO2排出ゼロを目指すということで、環境長期ビジョン2050との整合を図る具体的な取り組み例となる見込みです。また、2023年7月には、SBT認定も取得したということで、国際的なイニシアチブへの参画も継続して行っていることが分かります。

今後の統合報告書の改善策として、3点をご報告します。

・昨年の第三者意見でも言及しましたが、掲げている長期目標における整合性に課題があります。サステナビリティ目標2025と環境長期ビジョン2050との関係において、前者の4つのサステナビリティテーマのうちE(環境)においては、後者の4つのチャレンジに加えて「TCFD対応の推進」の5項目を設定したと書かれています。しかし、2022年度の重点方策にはTCFD対応の記載がありません。このことは、他のF(財務・将来)、S(社会)、G(ガバナンス)のテーマにおいても同様のことが見受けられ、2025年目標に向けた取り組みとして項目を設定しているにも関わらず、重点方策には記載ないものがあります。一方、環境長期ビジョン2050では、4つのチャレンジを掲げているのですが、主な取り組みは3つとなっており、内容的には4つのチャレンジの一部にしか該当しないものとなっています。

・2点目は、ダブルマテリアリティの考え方です。世界的にサステナビリティ情報開示の基準づくりが進展する中で、社会・環境に対する企業活動の影響の度合いが大きい課題を意味するインパクト・マテリアリティと、サステナビリティ課題による自社の財務に対する影響の度合いが大きい課題を意味するフィナンシャル・マテリアリティがあります。フジクラグループが事業を展開する欧州では、ESRSの基準において、これら2つのマテリアリティのいずれかもしくは両方を満たすものとして、ダブルマテリアリティを定義しています。さらにESRSでは、業種横断で環境は5つ、社会は4つ、ガバナンスは1つの基準が用意されており、マテリアリティを検討するうえでの土台となるものです。また、マテリアリティを検討する際には、IRO(インパクト、リスク・機会)の3つの側面を特定し、マテリアリティを評価することを求めています。このような動向を踏まえつつ、フジクラグループにおいて、ダブルマテリアリティをどのように特定しているのか、あるいは特定しようとしているのかの説明が望まれます。

・ここ数年間、同じ記載があり進展状況が不明なものがあります。サステナビリティ目標2025でも目標設定されているTCFDですが、統合報告書2020年から4年間同じ内容が記載されている状況で、掲載されているリスクと機会への理解がどのように深まっているのか、財務的な影響をどのように考えているのかが分かりません。TCFDのその他の開示分野である、ガバナンス、リスク管理、指標とターゲットについての記載がありません。また、「営事製開一体」となり、お客様の要望に沿った商品を提供するという記載が統合報告書2019年から続いています。営業・事業部・製造・開発が顧客とともにチームとなり、顧客価値創造を事業活動のサイクルとしていくことはフジクラグループとしての大いなる強みになると思いますので、具体的にどのような体制を組んでいるのか、創出されたソリューション事例など一歩踏み込んだ情報開示を希望しています。

 事業再生計画「100日プラン」を断行したことで、危機的な事業環境で2019年に底を打った財務状況もV字回復により目覚ましい業績を上げています。グループガバナンスのさらなる強化を進めている最中に発生した米国子会社での不祥事といった厳しい現実もありましたが、全般的には既存事業に対する需要の高まり、焦点を絞った技術開発の戦略など、可能性に満ちたフジクラグループの今後の展開に期待が高まります。一方、統合報告書においては、過去の記載方法にとらわれずに新しい要素の再編集とストーリーづくりにより、わかりやすい表現を工夫していくことで、外部からの好評価につながると思います。フジクラグループの取り組み及び情報開示における今後の進展を楽しみにしています。

ご意見を受けて

浜砂 徹 執行役員 経営企画室長

浜砂 徹

執行役員
経営企画室長

 本木先生の貴重なご意見有難うございます。
 フジクラグループは“つなぐ”テクノロジーを通じ顧客の価値創造と社会に貢献することをパーパスに掲げた経営を実践しています。それらの取り組みについて一定の評価をいただけたと理解致しました。今後も事業を通じたサステナブルな社会の実現に向け貢献してまいります。
 また、改善策に挙げていただきました3点の中で、長期目標との整合性およびマテリアリティの考え方については、長期視点での社会要請に沿った重要課題の整理と理解しました。現在実施しているマテリアリティの見直しの中で、ご提言の内容を参考にさせていただきます。また、統合報告書を中心としたESG情報の開示も、ステークホルダーとの対話に一層有益な内容になるよう検討してまいります。
 頂戴しましたご提言を真摯に受け止め、社会課題の解決に向けた取り組みを継続していきます。

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